債務整理|自己破産後の預金の取り扱い

こと
本件
配転

主文

1 被告は,原告に対し,40万0044円及びこれに対する平成19年5月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

主文1項と同旨

第2 請求原因の要旨

1 破産者A(以下破産者という)は,平成19年3月13日にa地方裁判所に破産手続開始を申し立て,同月22日午後5時に同裁判所より破産手続開始決定を受け,同日,原告が破産管財人に選任された(甲第1号証)。
2 破産者は,被告(b支店)との間で,平成5年10月ころ,破産者を預金者とする普通預金口座(口座番号c)を開設し,平成19年4月9日時点でこの預金口座の預入残高は,50万0147円(甲第2号証)であった。
3 原告は,上記2の預金口座の預入残高全額の払戻を求めたが,被告は破産手続開始決定前の残高40万0147円につき被告が破産者に有していた貸付金との相殺を主張して払戻に応じない(甲第2,3号証)。
4 被告は,平成18年11月7日に,破産者の代理人弁護士から債務整理開始通知を受け取っており(甲第4号証,乙第1号証),それ以後に同口座に入金された次の40万0044円については,支払停止の事実を知りながら破産者に対して債務を負担した場合に該当する。
(1) 平成18年11月30日B株式会社からの家賃収入10万円
(2) 平成18年12月29日B株式会社からの家賃収入10万円
(3) 平成19年1月31日B株式会社からの家賃収入10万円
(4) 平成19年2月17日利息入金44円
(5) 平成19年2月28日B株式会社からの家賃収入10万円
したがって,被告が相殺を主張する金額のうち40万0044円については,支払停止後に被告が破産者に対し負担した預金返還債務であり,破産法71条1項3号により相殺は無効である。
5 よって,原告は,被告に対し,本件預金40万0044円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である平成19年5月2日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

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第3 被告の主張

1 相殺について
(1) 被告は,平成15年2月3日,訴外社団法人d県年金福祉協会から破産者に対する次の内容の住宅ローン債権の譲渡を受けた(乙第2,3号証)。
@ 残元金565万8440円(当初貸付金額670万円)
A 年利率4.32パーセント
B 最終弁済期日平成30年9月14日
C 毎月の返済額3万0690円
D ボーナス月(2月,8月)の返済額10万5499円(但し,最終弁済期日まで逓減する)
上記住宅ローンの返済は,被告b支店の普通預金口座(口座番号c)からなされていた(乙第4号証)が,平成15年11月当時から同普通預金口座にはB株式会社から毎月10万円の家賃収入があり,同家賃収入をもって被告に対する住宅ローンの返済が継続的になされていた(乙第5号証)。
(2) 上記住宅ローン債権につき,破産手続開始決定がされた時点での残元金額は461万3681円であった(乙第6号証)。
(3) 破産手続開始決定がされた時点の被告における破産者の預金は次の合計
41万0366円である。
@ e支店普通預金口座(口座番号f) 8491円
A g支店普通預金口座(口座番号h) 895円
B b支店普通預金口座(口座番号c) 40万0147円
C b支店普通預金口座(口座番号i) 833円
D b支店普通預金口座(口座番号j) 0円
(4) 被告は,平成19年4月9日付け相殺通知書により,上記(2)記載の残元金と上記(3)記載の預金合計41万0366円を対当額で相殺した。
本件で原告が相殺禁止を主張しているのは,上記(3)Bb支店普通預金口座(口座番号c)40万0147円のうち,請求原因の要旨4(1)ないし(5)記載の合計金40万0044円である。
2 支払停止について
債務整理開始通知(甲第4号証,乙第1号証)の内容は,債権者である被告に対して依頼者への連絡や取立行為の中止,債権調査票の提出を求めるとともに,取引履歴の開示を求め,「調査終了後に,当職より債務整理方針等をご通知します」とするもので,支払を停止するとの内容は全く記載されていない。
また,同通知は,単に債務整理の開始を通知しているもので,その具体的な方針が明示されているものではない。
したがって,債務整理開始通知(甲第4号証,乙第1号証)が送付されただけで,破産法71条1項3号の定める「支払停止」に該当するものと解することはできない。
3 予備的主張
仮に債務整理開始通知(甲第4号証,乙第1号証)が送付されたことをもって破産法71条1項3号の支払停止にあたるとしても,本件については,同号但書に定める「当該支払の停止にあった時において支払不能でなかったとき」に該当するものであり,本件相殺は相殺禁止の規定に該当せず,相殺は有効である。
破産法上の「支払不能」とは,債務者が支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう(破産法2条11項)とされている。
本件では,被告に対する破産者の毎月支払額は3万1000円であり,債務整理開始通知(甲第4号証,乙第1号証)が送付された後も,被告の破産者名義の口座には毎月10万円の家賃収入が継続していたのであるから被告に対する毎月3万1000円の債務の支払いを継続することは十分に可能な状態であった。
よって,破産法71条1項3号の支払停止にあたるとしても,同項但書に定める「当該支払の停止にあった時において支払不能でなかったとき」に該当するものであり,本件相殺は相殺禁止の規定に該当しない。

第4 当裁判所の判断

1 請求原因の要旨1ないし3記載の各事実及び同4記載のうち被告が平成18年11月7日に破産者の代理人弁護士から債務整理開始通知を受け取った事実及びそれ以後に同口座に(1)ないし(4)の合計40万0044円が入金された事実は,当事者間に争いがない。
2 債務整理開始通知(甲第4号証,乙第1号証)が破産法71条1項3号の定める「支払停止」に該当するか否か
債務整理開始通知(甲第4号証,乙第1号証)によれば,破産者の依頼を受けた代理人弁護士Cが破産者の債務を整理するため,債権者に対し取引履歴の開示と取立行為の中止を求めた事実が認められる。
破産法71条1項3号の定める「支払停止」とは,弁済能力の欠乏のため即時に弁済すべき債務を一般的かつ継続的に弁済することができないこと(支払不能)を外部に表明する債務者の行為であると解せられるところ,債務整理開始通知は,債権者に対し取立行為の中止を求めているのであるから,同法の定める「支払停止」に該当すると認められる。
3 被告の主張3予備的主張について
破産者が平成19年3月13日にa地方裁判所に破産手続開始を申し立て,同月22日午後5時に同裁判所より破産手続開始決定を受けた事実は,当事者間に争いがない。
すると,その約4か月前である平成18年11月7日における破産者が破産法71条1項3号但書に定める「当該支払の停止にあった時において支払不能でなかった」旨の主張は,採用できない。
4 よって,本訴請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。

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